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食材の新鮮さを大切に創り出す、鑊氣を宿したこだわりの中国料理【一平飯店】
2025/08/08

食材の新鮮さを大切に創り出す、鑊氣を宿したこだわりの中国料理【一平飯店】

香港で触れた本場の広東料理の奥深さに魅了され、念願の香港での修行経験を通じて、伝統の技術だけでなく現地の文化にも触れながら、料理人としての視野を大きく広げた安達一平氏。数々の調理場経験を積み、今ではミシュラン星付きの実力店を築き上げた。新鮮な日本の食材を最大限活かし、伝統の枠だけにとらわれない独自の視点で、新しい中国料理の形を追求し続ける安達氏の料理人としての軌跡と、料理にかける熱い想いを語っていただこう。

手に馴染んだ中華料理への道へ

ーーー料理人を志したきっかけは何でしたか。

小学生の頃から、弟妹に簡単な料理を作ってあげていました。次第に晩御飯を手伝い料理を作る環境になり、味付けの工夫をしたり自分なりに楽しみながら続けていました。その頃は好きだと自覚はしていませんでしたが、高校卒業後の進路を決める段階で悩んだ末、『料理が好きだ』という気持ちが強く、調理師学校へ進みました。調理師学校では「和・洋・中」を学びましたが、中華が一番おいしいと感じ興味を持ちました。学校で習った料理を練習するうえで、家で作っている時に中華が一番しっくりくると感じていました。

ーーー調理師学校を卒業後はどこで修業を?

最初、富山県にある全日空ホテルにオープニングスタッフとして入りました。ホテルのオープンに携わる経験はなかなかできないと思い、志望しました。東京から単身で富山で働くことになり、不安は少しありましたが、当初はとても忙しく、予約が常に満席でした。とにかく日々一生懸命で、仕事以外のことを考える余裕はありませんでした。ホテルではレストラン業務以外に婚礼や宴会も担当し、料理に必要な基礎や段取りを学びました。 

本場の香港で広東料理の奥深さに魅入られ

ーーー修業時代の印象的なエピソードがあれば教えてください。

富山全日空ホテルがオープンする前に金沢全日空ホテルで3ヶ月間研修があり、そこで初めて広東料理のレストランの厨房へ入りました。当時は香港人シェフの方にすごくお世話になりました。先輩方はよく香港旅行や食事に行かれるようで、今の香港ではこういうのが流行っているなど、料理の流行りに対しても敏感で、最先端の情報も常に意識しながら料理に取り入れていました。厨房仲間のスタッフはみんな香港を目指しているような雰囲気で、私も香港に興味を持つようになりました。

全日空ホテルに5年半ほど勤めた後は、東京へ戻り、広東料理のお店【赤坂離宮】へ入りました。料理長に人生初の香港へ連れて行っていただき、日本にある広東料理と、現地の広東料理との違いに衝撃を受けました。日本では見たことが無い中国の野菜もたくさんあり、野菜の味や香り・調味料・水も違って、食べた時の口当たりが別物のようで、日本で作る広東料理と比べて一層力強い感じがしました。そして香港の活気もすごく、香港人は食に対して情熱的で、空気感の違いに強く惹かれました。それが夏の出来事だったのですが、同じ年の秋にもう一度香港へ行きました。日本ほど四季ははっきりしていないのですが、季節によって干し肉や腸詰など料理や食材に違いがあり勉強になりました。

ーーー【赤坂離宮】にはどのくらいお勤めされたんですか?

5年半ほど勤めました。ここでも香港の料理人の方がいて、色々な香港の料理を教わりました。もっと追求したいとモチベーションが上がるような熱量の高い人たちがいる環境でした。当時の社長譚さんに香港や広州、順徳(広東省)に連れて行っていただいたことも良い経験でした。初めて香港へ行った時も日本との違いには驚きましたが、現地を知り尽くした人しか知らないようなテイストの違うお店や広州の野味(ジビエ料理)のレストランは、今でも記憶に残っている世界感でしたね。その頃に香港現地の調理場で仕事がしたい気持ちが芽生え、知り合いの方からお店を紹介していただき、香港で働くことになりました。

より深い学びのため、香港現地の調理場へ

ーーー憧れの香港修業スタートですね。

香港でコックコートを着て調理場に入った時は身が引き締まる思いでした。最初は釜でチャーシューを焼いたり、ローストダックのような焼き物の仕事をやりたいという希望がありました。ですが、配属先での仕事は日本でやっていた内容とあまり違いがなく、それならば全くやったことのない点心を学びたいと思い、3ヶ月程して料理長に相談しました。香港は調理場が分業制で、勤務時間もそれぞれ違うんです。基本ポジションが入れ替わったりすることはないのですが、点心の調理場で仕事をすることになりました。

初めの頃は、日本人ということでなんとなく下に見られていてやり難い感じがしましたが、日本で10年以上料理人として仕事をしていたので、包丁で切り物はできました。そこで周りの見る目が変わり、すごくやりやすい環境になりましたね。点心の仕事の後は板場の材料の下処理の仕事なども経験させていただき、2年間の香港修行でした。

ーーー言語の壁など苦労はありませんでしたか。

あまり感じなかったです。日本にいた頃から、香港の人とコミュニケーションを取ったり、香港へ行きたい気持ちはあったので、常に情報を聞いたり、必要になるであろう広東語も教えてもらっていたので、特に問題はありませんでした。日本で教わっていない言葉は分からないこともありましたが、聞きながら少しずつ覚えました。

ーーー香港修行を終えてからはどちらに?

帰国後すぐに、知人の紹介で代々木上原の瓢香に食事に行った際、「次のお仕事決まってますか?」と聞かれ、「何も決まってないです」と答えたら、店舗拡大するので一緒にやろうとオファーいただき、代々木上原にあった【飄香(閉業)】、その後移転先の【飄香 麻布十番本店(こちらも現在は移転済み)】と「老四川 飄香(ピャオシャン)」グループの2店舗で、焼き物や前菜を担当させていただきました。

人との巡り合いから可能性が広がる

ーーー開業のきっかけを教えてください。

コロナ禍がきっかけで知り合いの新店立ち上げなどを一緒にさせてもらっていた時、料理勉強会のメンバーとして出会った林社長(現:一平飯店オーナー)に、一緒にやろうとお誘いいただきました。私は、雇われている身分で自分がやりたいものを表現するのは難しいと考えていたので、お誘いを受けた時どうしようかと悩んでいました。ですが、「やりたい料理を作っていい」と林社長からお言葉をいただき、決心がつきました。

店のコンセプトやレイアウトなどは社長と一緒に考えて、香港の裏路地のようなイメージでデザイナーさんにお願いして作りました。【一平飯店】の店舗名の由来は、「一平」は私の名前から、「飯店」とつけると中国料理のイメージがあって誰が聞いても分かりやすいかなという理由です。

その瞬間に提供できる、より美味しいものを

ーーー食材へのこだわりなどはありますか?

日本の季節の食材を重視しています。山菜は主に山形・新潟・京都から送っていただくのですが、その時期の鮮度の良いものをお願いしています。あとは、日によって数に限りがある食材もあって、例えば熊肉のすごく状態の良いものはなかなか手に入らないんですが、運よく仕入れられた時はそれを活かす。そういう希少な素材は少ないので、無くなればまた違う新鮮なものを使うという形で料理構成を考えています。その瞬間に一番良い状態のものを使いたいので、様々な業者さんと頻繁に連絡を取り合い、新鮮な食材の提案をいただいたり、こちらが使いたい食材があればお願いしています。コース料理についても、基本的には2ヶ月くらいで内容が変わる予定でお客様にお伝えしています。

ーーー熊肉以外にもジビエで扱われているものはありますか?

イノシシですね。あとは最近あまり扱っていませんが、鳩もあります。香港で鳩はよく食べる食材なんです。鶏よりも味が濃くて、どちらかというと鴨に近い感じがします。お客様で苦手な方がいらっしゃるので、最近は出さなくなってしまったのですが。常連の方でジビエを食べたいというお客様がいらっしゃって、内容を変えて鳩をお出しすると喜んでいただけました。

できる限り美味しい状態を味わっていただくために

ーーー料理についてこだわりがあれば教えてください。

一番大事にしているのは、「温度」と「香り」です。例えばスープをお出しする時も、一度蓋を開け、中に食材を乗せてお出しすることがありますが、その時間が極力短ければ短い方が良いですし、料理が出来上がっても配膳スタッフの手が空いていなければ温度が下がってしまいます。出来上がった料理をすぐに一番良い状態でお客様へ提供することが最も重要だと考えているので、料理の提供スピードを大切に「温度」と「香り」を損なわないベストな状態でお出しできるよう意識していますね。

内と外を知ってこそ昇華させることができる

ーーー今後の展望を教えてください。

以前は香港のやり方が正解であり、なるべくそれに寄せていくような、再現度の高さを基準で考えていた時期もあったんですけれど、次第に日本の食材をいかにうまく使えるかと、考え方が変わってきたように思います。料理の方向性も少しずつ変わり、香港には存在しない料理だとしても、広東料理の素地をうまく活かして、日本の食材を美味しくできればそれが良いのかなと感じています。以前であれば、香港にはないような料理はやらない方針でしたが、最近は素材を軸に据え、逆からのアプローチで考えるようになってきました。香港の料理をいかに日本の食材で作るか、だったのが、日本の食材を通していかに新しい形の料理が作れるかに挑戦しています。

香港の伝統ももちろん重要であると考えているんです。そこがないとただの創作料理でしかなくなってしまうので、伝統やそこにある意味を知っておく必要はあるんですけれど、更にその先の今は、食材を軸にしてどういう風に作り上げるかの挑戦ですね。例えばレモンの塩漬け、香港では魚の上に乗せて蒸したりしますが、そうするとすごく香りが立つんです。日本で言うと、ゆずの皮をちょっと削ったりとかしますよね。お椀に千切りしたものを浮かべて香りを立てるような。それと同じような使い方も良いかなと思ったりしています。今まで以上に様々な部分で柔軟さを大切にし、料理の幅がもっと広がればお客様にも喜んでいただけるかなと考えています。これまで積み重ねてきたものを昇華させていきたいです。

おいしいか・日本人の口に合うかということよりも、香港での正解を優先させていた部分があるんです。使うのは日本の食材でお客様の多くも日本人なので、そういう部分も大切に考えながらよりおいしく召し上がっていただけるものを作っていきたいです。

一番美味しい瞬間、そこに生まれる氣

ーーー安達様にとって中国料理とはどういうものですか?

やはり「温度」と「香り」が大切でしょうか。香港では「鑊氣」(鍋の気)と書く言葉がありまして、日本語に直訳するのは難しいのですが、鍋に立ち上がる湯気のようなイメージの言葉です。香港の料理人はそれをすごく大切にしています。ベストな状態で的確に食材に火を入れ、出来上がった料理から湯気が立ち上がっている状態は絶対に温度が高く、香りも立ちます。やはり出来上がりはおいしいんですよね。熱いものは熱いうちに、冷たいものは冷たいうちにというのが、料理のおいしさを引き立てる要素として大切だと思います。

ーーー最後に、安達様にとって「おいしい」とは?

その食材一つ一つの鮮度の良さが大事だと思います。産地でしっかりと良い状態で処理された食材を、最適な状態に下処理して、そこに適切な火入れや味付けをし、お客様のテーブルまで繋げる。たくさんの要素がある中で全部欠けちゃいけないのは当然のことで、味付けも火入れももちろん大事ですが、その土台となる素材が旬だったり良い状態であることが 「おいしい」 を完成させるうえで必要なのかなと思います。

鮮度の良い食材を主軸に、適切な火入れと味付けを施し、温度と香りを重視した最高の状態で提供する。香港で培った伝統的な調理技術を大切にしながらも、日本の旬の素材を巧みに取り入れた中国料理の表現に挑戦し続ける安達氏。料理人として技術と感性を研ぎ澄ませ、常に昇華してゆく安達氏の創る一皿一皿は、これからも多くの人の心を満たしてくれるだろう。【一平飯店】でしか味わえない新しい中国料理の表現に、是非出会ってみて欲しい。

取材・文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/馬場昇一

店舗情報


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