ーーー料理人を志したきっかけは?
看護師の母が料理上手で、小さいころからお手伝いをするうちに、僕も自然と料理を作るのが好きになりました。本格的に料理人の世界を目指したくなったきっかけは、よく行っていたお店の料理人の方の背中がとてもかっこよくて、僕もこの人のように料理人になってみたいと思うようになりました。京都の環境で育ったので、やるなら日本料理かなという感覚で、20歳で料理人の世界に飛び込みました。
ーーー修業時代の印象的なエピソードはありますか?
修業時代の思い出はとにかくがむしゃらな日々でしたね(笑)。実力をつけて将来独立するぞ!と自分に言い聞かせて、厳しい修行に耐えるという感じでした。
そんな中で印象に残っているのは、大変お世話になった某日本料理店のおやっさんがいまして、僕がお店の前を通りかかると、他のお客様もいらっしゃる時でも、「お、西!入ってこい」と声をかけてカウンターの隅で、料理を2〜3品振る舞ってくださるんです。修業中の身にとってものすごくありがたい勉強の機会になり、今でも鮮明に記憶に残っています。
そういう粋なことをしてくださったり、おやっさんから学ばせていただいたことは今でもためになっていますね。
「料理は器との会話や」と、いつも口癖のようにおっしゃっていました。僕の人生の中で、おやっさんとの出会いはとても大きかったです。今の時代になかなかそんなことをしてくださる方はいらっしゃらないと思いますし、若い料理人にとって本当にありがたい経験でした。
ーーーイタリアン店でも修業を積まれたと伺っています。異なるジャンルから得た視点や気づきはありましたか?
はい。初めは日本料理店で修業をしていましたが、もっと視野を広げたくて、フレンチかイタリアンも学びたいと思ったんです。ただその当時は京都に高級フレンチの修業に入れるお店がなかったので、イタリアンを学ぶことに決めました。
イタリアン修業に入ったお店のシェフはよくジビエを使ったので、日本料理ではなかなか触れないような食材についても学べる機会が多かったです。赤ワインと、干しブドウから仕立てたソースをジビエに合わせたり、コンソメを一から作ったりというのは、日本料理では経験できない貴重な経験でした。
独立することが念頭にあったので、どのように学んだイタリアンの料理技術や知識を、日本料理に落とし込んで使えるかとずっと考えていました。
ーーー実際にイタリアンで学んだ技術が活きていると感じる部分はありますか?
「八寸(会席料理において「前菜」にあたる料理)」などにも、イタリアンや洋テイストを組み込んだジュレを使いますし、他には野菜のソースですね。例えばカリフラワーのソースなど、日本料理では作らないようなソースを作り料理に合わせています。
ーーー独立開業時のエピソードを伺えますか。
20歳で料理人の世界に入り、32歳で独立が叶いました。昨今のようにSNSも普及していなかったので、集客にも苦労し、オープンしたての頃は本当に閑古鳥が鳴いているのが聞こえていたくらいで(笑)。振り返れば本当に大変な思い出しかないんですが、女将と二人三脚でなんとかやってきました。
日本料理としての質だけでなく、何かに特化した強みがないと京都の日本料理界では通用しないと考えました。当時は周りの料理人が持っていなかったこともあり、一つの強みとして、ソムリエの資格を取ろうと決めたんです。「ソムリエ試験に一回で合格できたら独立する。落ちたら諦める」。そう自分を追い込んでチャレンジすることにしました。
仕事時間が長いので、昼も夜もなかなか落ち着いて勉強をする時間は取れませんでしたが、それでも仕事終わりや休みの日にはひたすら勉強し、一発合格することができました。
そしてタイミングよく、立地も納得のいくこの場所の物件が見つかったんです。お店を構える場所はこの辺りがいいかなとは考えていましたが、全部つながってくるというか、神様って見てくれてるんだと思いましたね(笑)。
ーーー料理について大切にされていることはありますか?
京都という土地柄、僕が大切にしたいのは「粋」ですね。粋な料理をして、「余韻」を演出したいと考えているんです。古き良き時代から残る感覚を大切に継いで、食べ終わった後まで心地良く残る余韻を与えられるように、常に意識し取り組んでいます。
料理を作るうえで、この食材の活かし方はこれが限界なのかと常に自身に問いかけるようにしていて、まだ見ぬ技術や調理法、もっと魅力を引き出す方法があるんじゃないかという姿勢を忘れず、常日頃から考えています。今まで試していなかった別の食材と組み合わせることで、新たな表情が見えることもありますし、そうして試行錯誤を積み重ねた先に、【祇園 にし】だからこそのオンリーワンの料理が生まれると思っています。
最近はSNS映えを意識されているお店も多いですが、僕はあまり考えていないです。あくまで古風な京都らしさ、派手さではなく奥行きのある「品」と「粋」な料理を目指していくという考えを大切にしています。
ーーー食材選びについてこだわりはありますか?
市場へ出向き、自分の目で食材を直接見て、良いものを選ぶようにしています。料理人の感覚なのかもしれませんが、食材が並んでいる中でその食材単体が光っているように感じるものがあるんですよ。まるで向こうから「使って」と言ってくるような・・・。そんな食材に出会った時は、価格は気にせずに買いますね。たまにすごい存在感を放っているのがあるんですよ(笑)。
地産地消を目指したい気持ちもあって、これまではがむしゃらだったのでそういうことを考える余裕がありませんでしたが、【祇園 にし】が10周年になる節目としても、今まで以上に生産者さんとの繋がりも増やしていきたいんです。
ーーーコースなどの献立はどのように組まれているんでしょうか?
ある程度の構想は月ごとに決まっているので、献立通りの買い物を行います。しかし、自然が相手なので、欲しいタイミングに手に入らない食材などは出てきますから、そこは柔軟に対応します。料理の引き出しはいくらでもあるので、その時に使える食材に合わせて調整します。
例えば今日お出ししたお椀は「鮎並(アイナメ)」でしたが、質に納得のいく鮎並が手に入らないとなれば、すぐに違う食材へと切り替えます。
なのでたまに、同じ月の間に数回来てくださるお客様もいらっしゃいまして、その場合にはお出ししたメニューは全部把握しているので、都度構成を全て変えて対応しています。以前同じお客様が3日連続で来店されたこともありましたが、意地でも全部変えましたよ(笑)。
ーーー日本料理とワインを組み合わせるうえで意識されていることはありますか?
ソムリエ資格は取りましたが、【祇園 にし】では日本料理が主役だと思っているので、ワインを「寄り添わせる」という感覚で、相乗効果を意識しています。
メインで使っているのはブルゴーニュワインです。ワインも種類によって違いに幅がありますから、お客様それぞれに合わせたワインを選定できるよう取り揃えています。
ワインも一緒に楽しみたいけど迷うという方には、かなり王道ですが「ルフレーヴ」がおすすめですね。白ワイン界のトップ3に入るくらい有名です。
ーーー器や空間づくりで大切にされていることは?
器の購入は直感を大切にしています。器を見ていると、料理が乗っているイメージが見える時があるんですよ。その時は食材と同じで価格は一切気にせずに買います。
伝統ある京都であるからこそ、器の伝統も守っていきたいという想いがあるので、料理以外の観点も大切にしていきたいです。
空間について大切にしていることは、ライブ感ですかね。やはりカウンター席は人気がありますし、手元など調理風景が見える楽しさや、会話しながらお食事していただける距離間など、居心地の良い空間にしたいなと思っています。
ーーー今後の展望はありますか?
40代を迎えてからは、この生まれ育った京都で、もう一度真剣に料理に向き合いたいという気持ちがより強くなってきていて、今移転を視野に入れて考えています。
今の自分でもう一度、一から創り上げたい意欲が湧き上がっていて、器や設えも全部変えて、一つ一つの食材に対し、改めて極限まで追求してみたいんです。
提供できる質を高めたいので客席を減らそうと思っていて、カウンター8席に個室を1部屋ぐらいをイメージしています。坪庭があって、個室のテーブル席でも料理人がライブ感を出せるお店作りがしたいなと、今色々と構想を練っているところです。
以前は多店舗展開などにも興味がありましたが、最近は気持ちも落ち着いて、純粋に料理と向き合いたい気持ちがとても強くなってきました。なので、仕入れ先の生産者さんやお水などにもこだわって、一から全部変えてみようかなと思ったんですよね。
この場所に慣れて通ってくださるお客様も大切にしたいので、あまり遠くに行く気はありません。
静かな場所がいいなと思っていて、古風で粋な京都の雰囲気というか、昔の粋な京都の時代に戻れるような場所を見つけたくて、今良い物件が見つかればすぐにでも行きたい気持ちです。
料理にも器にも本気でいきますので、楽しみにしていてください。
ーーー最後に、西様にとって「おいしい」とは?
「出会い」「ひらめき」「努力」が重なった瞬間かなと考えています。食材との出会い、新たな調理法のひらめき、そして作り手の追求心とともに積み重ねてきた努力。食べる人がそこに至るまでの過程もそうですし、その食材が厳しい大自然の中を生き抜いてきた生命力もあります。それぞれの背景が全部重なった瞬間に、初めておいしいという言葉が生まれるのだと思います。
華やかさよりも、心に残る余韻を。西氏の料理には、京都らしい奥ゆかしさと芯の強さが宿り、ただおいしいだけでは終わらない一皿として表現される。器や空間、そして料理そのものを一から見つめ直し、新たな挑戦への情熱から生まれる料理が、これからどのような「粋」と「余韻」を生み出すのか、期待は尽きない。食材との出会い、生まれるひらめき、積み重ねた技術と努力。それらが重なりおいしいが生まれる瞬間の体験を、是非【祇園 にし】で味わってみて欲しい。
取材・文/AutoReserve Magazine編集部
撮影/馬場 昇一
Pur mantenendo come base la cucina giapponese, incorpora la sensibilità affinata durante la formazione in cucina italiana, perseguendo un'espressione unica. Propone un menù che riflette il cambiamento delle stagioni e un'accoglienza che valorizza l'incontro unico, offrendo piatti che lasciano una profonda eco. Si pone grande attenzione all'armonia tra ingredienti, stoviglie e spazio, mantenendo l'eleganza e il 'sui' tipici di Kyoto.